野を横に馬牽(ひき)むけよほとゝぎす 》
この場面、少女かさねちゃんが芭蕉の乗った馬の後を走って追って来る微笑ましい場面と並んでボクが好きな情景。つい心が和む。さらさらと短冊に一句認(したた)めて轡を取る男に手渡してやる芭蕉も優しい。この短冊、今も残っていれば時価500万円は下るまい。ところでこの馬の口付の男の素性だが、単なる匹夫でないことはその口にした要望の文化的香りからして分る。《奥の細道》に「館代より馬にて送らる。此の口付のおのこ」と書かれているのだから館代浄法寺桃雪の家来だと推察される。
《曾良随行日記》にはこのおのこ(男)の素性がはっきり書き留められている。『16日、‥‥翁(芭蕉)、館(桃雪邸)より余瀬(翠桃邸)へ立ち越される(曾良は翠桃邸に泊っていた)。即ち、同道にて余瀬を立つ(桃雪邸に戻った)。昼に及び、図書(桃雪)、弾蔵(たまぐら、武器庫か)より馬人(馬と人)を付けて送られる。馬は野間と云う所より戻す。‥高久に至る。雨降り出すにより、滞る。‥宿・角左衛門。
18日、‥‥午の剋(正午)、高久・角左衛門宿を立つ。‥‥馬1疋、松子村迄送る。‥‥未の下剋(午後3時前)、湯元・五左衛門方へ着く。
19日、‥予(曾良)、鉢に出る(托鉢か)。朝飯後、図書(桃雪)の家来角左衛門を黒羽へ戻す。午の上剋(午前11時半頃)、湯泉へ参詣。‥‥‥』
〇湯元に着いた翌朝、図書(桃雪)の家来角左衛門を黒羽へ戻している。湯元まで付いてきたこの「図書(桃雪)の家来角左衛門」こそ芭蕉に短冊得させよと乞うたおのこ(男)なのである。桃雪が付けてくれた馬の方は高久の手前の野間と云う所で既に戻している。その後宿場の馬次を利用している。
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