緑なすはこべは萌えず 若草もしくによしなし
しろがねのふすまの岡辺 日に溶けて淡雪流る
あたゝかき光はあれど 野に満つる香りも知らず
浅くのみ春は霞みて 麦の色わづかに青し
旅人の群はいくつか 畠中の道を急ぎぬ
暮れ行けば浅間も見えず 歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の 岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて 草枕しばし慰む
歌碑にあるのはここまで。藤村・第四詩集「落梅集」所収。同じく「落梅集」所収の次の詩がそのうち「千曲川旅情の歌」第二題とされて親しまれるようになった。
昨日またかくてありけり 今日もまたかくてありなむ
この命なにを齷齪 明日をのみ思ひわづらふ
いくたびか栄枯の夢の 消え残る谷に下りて
河波のいざよふ見れば 砂まじり水巻き帰る
嗚呼古城なにをか語り 岸の波なにをか答ふ
過し世を静かに思へ 百年もきのふのごとし
千曲川柳霞みて 春浅く水流れたり
たゝ゛ひとり岩をめぐりて この岸に愁を繋ぐ
↓歌碑近くの展望台から見た千曲川風景
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