2009年8月2日日曜日

抽象絵画はそんなに偉いか。

戦後の日本画壇を一時期抽象画が席捲したそう。抽象画でなければ絵にあらずと言われたそう(平家に非ずんば人にあらず、を連想)。そのような風潮を盛り立て煽り立てたのは美術評論家と画廊と相場が決まっている。そういう時代に孤塁を守った一人が僕の人物画の師・八野田博先生の師匠・中村琢二画伯(一水会会員)。先生が師匠に弟子入りを許されたときの条件は抽象画に染まらないことだったそう。その条件はこう切り出された――ところで君は突拍子もないことを考えてないだろうな、写実を基本とする心掛けなら指導してやろう。あの高光一也でさえ一時期抽象画に膝を屈した。彼の無残な抽象画?を見たことがある(数多の魚らしきものが画面一面に布置されていた。具象的な抽象画?←如何にも無意味だなぁ)。絵画の抽象性とは何か――これは考えてみるだけのことはありそう。

抽象画は、写実(具象の写生)を排し、色・形だけで絵を構成する。

抽象画の開祖はカンディンスキーだそう(モンドリアン説もある)。カンディンスキーは視聴覚連合野の機能が異常に発達した人で視覚と聴覚の「共感覚」に基づいて絵を描いた。リズム感(聴覚)を画面(視覚)で表現。凡人が彼の絵と如何にして付き合うかは真剣なテーマ。この検討を抜きにしてカンディンスキー流の抽象画を奉ることは殆ど無意味。

パブロ・ピカソの絵は抽象画か?真正抽象画家?の立場からは問答無用で否定される。実際ピカソはモデルなしで絵を描いたことは一度もないと告白している。ピカソの絵はモノの見え方の探究の成果、分類的には具象絵画。彼の場合も、彼の資質の特異性を理解しなければその絵を理解できない。ピカソは告白している、自分は言語表現に障害がある(特に文章表現が苦手)、スケッチブックに毎日身辺の事をスケッチするのは日記の代わりだと。最近NHKの特集番組で或るアスペルガー症候群の若い建築士のことが放映された。その若者は文章表現に障害がある、その代わりかモノの立体視に異常な才能を発揮する。ピカソも同様のアスペルガー症候群であった可能性が大きい。ピカソの立体視は常人も同様に視覚しているわけではない。大抵の美術評論家もキュービズムを体感して奉っているわけではない、ピカソの立体視の異能(天才)を信じて論じているだけ。

常人的立場から画家になった一人がアンリ・マチス。小川琢二はマチスを愛した。彼らが探究したのは色の綺麗さと形の単純さ。小川琢二は俳諧趣味だったがさもありなん。彼らは彼らで写生の中に素敵な絵画的世界を探り当てている。

抽象表現は果たして画面による制約や道具を使って描くことの制約と馴染むのかどうかという問題があるが、僕にはそんなことに関心が向かない。絵画となれば「画面」に「描く」という制約から脱出できまいと思っている。

抽象絵画と雖も視覚に頼るしかない。視覚は実に具体的で、抽象的視覚などは存在しない。抽象画と雖も視覚的に見て描くしかない。何を見て描くのか。画面、画面のみ。画面上のシミ、色、形などに着目しそれを発展させて画面を構成していく。視覚に基づく行為という観点から抽象絵画を定義するならそれは、画面のみを見て描き、描く行為を積み上げて画面を色・形で構成するものであり、画面外の自然界の対象(具象)は決して見ないで描くものとするしかない。僕はこれを「画面only構成主義」と命名する。

絵画の本質を画面(平面)に描く行為と見抜いて自覚的に自然(立体)を画面(平面)に描くことの意味を探究した先駆者はセザンヌ。セザンヌの有名な言葉――自然は「円錐」「円柱」「球」という三種の立体で出来ているという言葉を真に受けてはいけない。彼は、自然(対象)は悉く立体的でありそれを平面(画面)に写そうとすることには本質的に無理があるということを指摘しようとした。画面は写実する場でなく、画面として独自に絵画的に(描く行為によって)構成する場だと主張した。僕はセザンヌの立場を「画面構成主義」と名付ける。セザンヌが抽象絵画に道を開いた人と評価されるのは理由がある。因みにセザンヌも自然やモデル(対象、具象)を見ずに描いたことは一度もない。抽象画家では決してない。

抽象絵画とセザンヌの絵画との違い。セザンヌは対象(立体)と画面(平面)の関係を切断して画面を写実主義の縛めから解き放ち「画面構成主義」を実践したのであるがしかしあくまで見て描く対象を世界・自然のモノにおくことを放棄しようとしなかったのに対し、抽象絵画は見て描く対象を画面そのもの(画面only)に限定してしまった(「画面only構成主義」)

人が視覚を使い何を見て感動するのかということが抽象画、具象画の価値を決める。カンディンスキーは聴覚的リズムを感じさせる抽象的視覚画像に価値を見出せたが、非カンディンスキー達も同様に価値を見出せるとは限らない。


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