2020年2月22日土曜日

〇兄の死顔

〇「奥の細道紀行」を完結した日(2020.2.21 Fri)、兄が死んだ。急逝。享年79歳。駆けつけてみると、その死顔はまるで眠っているかのよう。安らかで、優しくて、美しくて老人臭さがなかった。兄は決して生きるのが上手な人ではなかった。耐えて忍んで生き抜いたに違いない。それでいて立派に業績を残し、何よりも慈しみ深い妻と逢うことができ、可愛い二人の娘に恵まれ、それは可愛らしい六人の孫に囲まれた人生でもあった。きっと苦悩が多かっただろう人生をとにかく無事に安らかに終えたのは、一大事業の成就に等しい。ボクは、その死顔に向かって「ご苦労様でした」と声を掛けた。枕元に奥さんが坐っていた。この人あればこその兄の安らかな最期。ボクは彼女に対しても「ご苦労様でした」と声にした。兄が妻宛に残していったという文章を読んだ。それは人の書いた言葉というより、天から降り注いだ珠玉の宝石箱。神の愛の啓示とはこのようなものだろうか。兄は最期に、神の愛に包まれた安らかな死を示して逝った。さようなら、永遠に。兄とその妻はキリスト教徒。ボクは、余生を自分らしく生き抜いて、最期にその自分に対してご苦労様でしたと言って死ねる、そういうものに私はなりたい。

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