2012年7月24日火曜日

〇松本清張「小説帝銀事件」

この一両日、松本清張の「小説帝銀事件」を読んでいた。死刑囚・平沢貞通は、数十年間獄中にあって死刑執行されることなく老衰死でその人生を終えた。法務官僚は彼に対する死刑執行に遂に踏み切れなかった。平沢貞通は奇怪な死刑囚だった。帝銀椎名町支店で行員16人に一斉に青酸系毒液を飲ませて全員を悶絶させ、うち12名を死に至らせて大金を強奪したという計画的な大悪事件の犯人臭さ、犯罪遂行能力がなかった。肝腎の犯行に供した青酸系毒物、容器、ピペット等を平沢貞通が入手した事実を裏付ける証拠が一切ない。自白のみ。毒薬物の専門家でなければ犯し得ない水際立った手際の犯行なのに、平沢貞通には専門家性の片鱗もない。にもかかわらず彼の関与を疑えば疑える間接証拠の有力なモノが幾つか(五点ほど)突き付けられた。これに、平沢貞通にはコルサコフ(嘘つき)症候群があって、これが捜査・裁判を混沌とさせた。捜査・裁判とは何か、人が人を裁くとはどういうことかを考えさせる事件。平沢貞通は”白”。真犯人は捜査・裁判を嘲笑いながら天寿を全うしたはず。

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